映画「誰も守ってくれない」

映画「誰も守ってくれない」を鑑賞して来ました。

この映画は、第32回モントリオール世界映画祭のワールド・コンペティション部門で最優秀脚本賞を受賞した作品で、殺人犯の妹になった少女と、彼女を保護する刑事の逃避行を通じて日本社会の理不尽さを問う社会派ドラマ。
「踊る大捜査線」シリーズの君塚良一が脚本と監督を兼ね、過熱するマスコミ報道と容疑者家族の保護をテーマにした問題作を完成させた。
撮影手法は、ドキュメンタリー的な臨場感を出すため、全編ハンディカメラのみを使用したオールロケだとの事です。

この映画を鑑賞する前に、土曜日にフジテレビで公開された2時間ドラマ「誰も守れない」を視聴して、日曜日に映画館にて「誰も守ってくれない」を鑑賞したので、この作品における人間関係を把握して観る事が出来ました。

ストーリーは、平凡な4人家族の船村家で、ある日、船村家の18歳の長男が小学生姉妹殺人事件の容疑者として逮捕されてしまう。
警察は社会的制裁から守る為という理由で被疑者家族を母方の姓に変更。
父は休職、妹は休学となり社会との接点を封じられる。

東豊島署の刑事である勝浦(佐藤浩市)は容疑者家族の保護を命じられ、保護マニュアルに従って容疑者の妹にあたる15歳の沙織(志田未来)をマスコミの目、そして世間の目から守るため、各方面へ逃避行を始める。
その逃避行の最中にも様々な障害と困難にぶつかる。

事件のショックで心を閉ざした沙織と、沙織を守りつつも彼女から兄の犯行を決定付ける証言を得たい勝浦。
だが、勝浦自身にも崩壊寸前の家庭を必死につなごうとしている同年代の娘がおり、沙織の辛さが痛い程分かる。

被害者の家族ではなく加害者の家族という視点で取り上げた作品だったのですが、殺人犯の家族という理由で、各方面から非難を浴びせられる沙織を観ていて、凄くやり切れない気分になりました。
殺人犯の家族を題材にした作品と言えば、「手紙」や「白夜行」なども有名ですが、こういうのが実際の社会でも起こっているとしたのなら、あまりにも残酷です。

この映画では、残された家族に対してマスコミが異常なまでに追いかけ回したり、インターネットでは長男の顔や実名を公開したりとやりたい放題。
確かに近年、殺人事件に対する報道は過剰だし、そこまで調べなくてもいいのではないかという情報まで報じられていますよね。

むしろ劇中内でのインターネットでの遣り取りが、非常に気分を悪くさせられました。
報道には規制があるが、インターネットには規制が曖昧だし、顔も見えないので、たとえ違法であろうとおかまいなし。
最初は長男中心でしたが、その内、沙織の事を取り上げて、勝浦の過去が浮き彫りになると勝浦までもがインターネットの餌食されてしまう。
その間、被害者の残された家族の事はそっちのけ。
自分もインターネットを利用している人間として、インターネットの普及によって利便性を感じる反面、この映画によって、恐ろしさを痛感させられました。

劇中内において、一番悪いのは殺人を犯した長男ですが、その殺人を犯した長男の家族だからと言って一方的に非難を浴びるのはどうなのだろうか?
家族の誰かが殺人に協力したと言うのなら話は別だが、殺人は長男の単独の犯行であり、同じ家族だからと言って長男の全てを知っているわけではない筈。

ましてや、被害者側の家族が加害者側の家族に謝罪を求めるというのならともかく、被害者側の家族が動く前にマスコミや警察が異常なまでに動いてしまい、被害者側の家族なんて知ったことではないとばかりに加害者側の家族を取り囲み。次第に加害者側の家族もマスコミやインターネットによって被害者側へ回されてしまう。
マスコミやインターネットの住人も犯罪者の事を取り上げるあまりに、自分達も犯罪に等しい行為をしている。(実際に逮捕されたヤツがいたが・・・)
あまりにも理不尽な構図です。

そのプレッシャーに耐えられず沙織の母は自殺し、沙織自身も心身ともに打ちのめされてしまう。
そんなボロボロの沙織を勝浦が、かつて自分のせいで子供を失った夫婦が経営するペンションへ預けてもらう事になる。
最初はペンションのオーナー・本庄圭介(柳葉敏郎)と妻・久美子(石田ゆり子)も沙織を受け入れるのだが、過去に警察の不手際によって子供を殺されただけに、圭介は警察に保護されている沙織を受け入れる気にどうしてもなれず、一度は殺人犯の家族だからという理由で、勝浦に沙織と一緒に出て行くように命じる。

マスコミやインターネットの住人達は、単に話題に盛り上がりたいだけですが、圭介の言葉は子供を殺された過去を持つ者として非常に重みを感じる言葉でした。
今回の事件で2人の子供を失った被害者の家族は、一体どのような気持ちだったのでしょうか?

沙織を取り巻いた過剰な報道も新たなニュースによって、マスコミの目もインターネットの目もそっちへ行ってしまい、沙織の兄が犯した事件に関しては、見向きすらされなくなってしまう。
熱しやすく冷めやすいとは言いますが、この事件に執着していた新聞記者(佐々木蔵之介)の表情も印象的でした。
ただ、あの表情は何を意味をしていたのか?
自分の取り上げた事件が隅っこへ追いやられた事に対する儚さなのか、あるいは騒ぎが収束した事に対する安堵の表情だったのか?
ちょっと気になってしまいました。

沙織も母を失い恋人に裏切られ、友達にも会えないと、わずか1週間の間で様々な障害と困難に衝突してしまったのですが、その沙織に対して勝浦が「君が家族を守るんだ」と諭したセリフに感銘を受けました。
誰も守ってくれないなら自分自身で守っていくしかない。
15歳の沙織には厳しい難題かもしれないが、この先にも厳しい困難が待ち受けているのだから・・・。
逃げずに立ち向かって行かなければならないのだから・・・。

映画全体を総括すると、世界に評価された作品だけあって、非常に見応えがあり考えさせられる事の多かった作品でした。
主演の佐藤浩市と志田未来の演技も素晴らしかったですね。
佐藤浩市は、刑事という仕事と同じ年頃の娘を持つ父親の2面性で揺れ動く勝浦を繊細に演じきっていたし、志田未来も喜怒哀楽を全面に出し、目で気持ちを伝える演技も秀逸。
それ以外のキャストも、それぞれの気持ちを演技でよく伝えていたと思います。
オープニングとエンドロールで流れた曲も劇中にマッチしていましたね。

「リング」のようなホラー映画とは別の意味で「怖い映画」だった・・・。
出来る事なら沙織の今後を描いた作品を観てみたい気がしました。


誰も守ってくれない(OST)
EMI MUSIC JAPAN(TO)(M)
2009-01-21
サントラ
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